私は建築の親密さに心惹かれます。外観でも室内空間でも愛らしさを感じる親密な有り様に憧れを抱いて設計を続けています。
親密な建築としてまず思い起こすのは奈良市内の元興寺の脇にある十輪院という小さなお寺です。鎌倉時代に建てられたという本堂はとても小さくて軒が低く、住宅を思い起こさせるスケールの素敵な佇まいです。学生時代には幾度も南門の脇のベンチに腰掛けてその本堂を眺めて過ごしました。また新宿にある林芙美子記念館は非常に細やかな眼差しを感じる建物で今でも林芙美子さんが奥から現れるのではないかと錯覚するような生き生きとした空気感を纏っています。
京都の老舗宿の俵や旅館には、京都の町中であることを忘れさせるほどの緑が深く美しい光にあふれた庭があり、それを臨む形でいくつもの小さな居場所が用意されていて、どの場所も窓の高さや視線の抜け、家具の配置によって重心が低く抑えられ、いつまでも静かにその場に佇みたくなる空間です。
それらは古い建物ですが、その建設に携わった設計者、あるいは大工、建て主の眼差しが感じられ、それがとても暖かで、自信に満ちていて、現代を生きる私達にも憧れと共感を呼び起こします。この親密な空気感を醸し出す住宅を造りたい。常日頃そう考えています。
著書 木造住宅のつくり方「朝霞の家」できるまで/オーム社 より