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Salk Institute For Biological Studies //Louis I Kahn

1965 North Torrey Pines Road,La Jolla,California

 

アメリカ西海岸の最南端、メキシコに程近い高級リゾート地、ラ・ホヤの太平洋を望む地にこの研究所はあります。

カーンの建築の中でも、キンベル美術館に並ぶ代表作といえる建物。

あいにく天気は曇り、時より小雨が降る中の訪問となりました。

 

研究所へのゲートを抜け、まず、あの有名な中庭に入ってゆくことになります。

あの、とは、どのことかといえば、

建物の工事が終わり、どのような庭にするべきか、思い悩んだカーンは、メキシコの建築家、バラガンに助言を求めます。

バラガンの「ここは、緑で覆うのではなく、空へのファサードとするべき。」という意見を受け、

太平洋へと中央を真っすぐに延びる水路 (写真では海は残念ながら霞んで見えていませんが)のある、プラザ(広場)に仕上げたというエピソードのことです。

 

緑の木々と水路の書き込まれていた、当初の図面を前に、最後の最後まで、シックリと来ないことに自問自答を繰り返した、 カーンの姿を垣間見ることができます。

この静寂に満ちたプラザは、海、建物、人を浮だたせています。

緑が、いろいろな物を覆い隠すのに対し、この寡黙な広場は、あらゆるものを濾過し、空間次元を超えて不変なものを感じさせる気がしました。

宇宙からみえる、地球という星の結晶があるとすると、このようなものではないかと思うほどです。


広場を進んで、振り返ると建物の窓が海の方に開いているのがわかります。

これは、研究者のための個室にあたります。


建物全体は、鉄筋コンクリートの塊でできているのですが、

この海に面した窓の壁には チークの木材でできたパネルがはめ込まれて、

人間の営みの場であるにふさわしい 温かな表情も持っているのです。


この建物を見ると、カーンの、整理整頓好きな完璧主義を感じます。

カーンは、あらゆるものを明確に分けて考え、それを建築に集約します。

その明快さは、とても心地よく、そして、同時に非常に厳格です。

 

皆の集まる実験室と個人がこもる研究室。 人の居場所とそれを支える機械室。 構造に必要な壁、そうでない壁。

それらは入り乱れることなく、それにふさわしい性格を持たされ、それらの配列が建築のデザイン となっているのです。

あらゆるものを分けること、これは時の経過によって変わるものと変わらないものを分けることでもあり、 建築の耐久性にとっても非常に重要なことなのです。

 

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中庭に面した建物の間に見えるのが、実験室塔です。

床を支える大構造体のスペースを利用した機械室と、実験室が階ごとに交互に重なっています。

設備と部屋を完全に分けることで、実験室は丸っきり柱も壁もない、自由に設備の変更のできる大きな空間となっています。

構造に必要なコンクリートの壁に対し、実験室の窓は、スチールとガラスによるパネルがはめ込まれています。

 

そして、あらゆるものの境目を形で示します。

構造のコンクリートと、窓の木でできた窓パネル。

実験室等のコンクリートの壁と、事務室の図書室の壁のコンクリートの間。

構造の壁と、構造でない手すりの壁。

そこにできたスリットは、建物に表情を作り出し、そこから漏れる光は陰影を作り出します。

そして、コンクリートの壁に残された型枠の目地さえも、床、壁、階段の境を示し、

そこにかかる、力の流れが見えるようです。



カーンのつくった、ソークには、形、素材が考え抜かれ、無駄なもの、意味のないものが全く見当たりませんでした。

そして、すべてが純粋で力強く、遺跡のような風格さえあります。

今残っている遺跡や奈良時代の建物に似た風格。

だとしたら、この建物は、何千年も後世に残る建物なのかもしれません。

実験棟と個室の研究室の間はガーデンとなっていて、何やらパーティーが行われていました。

床のレンガの温かみが、このような場所を、海の見渡せない地下に分けてしまった(?)

カーンのせめてもの償いのように感じるのでした。